とある発達障がい者が語る人生

発達障がいと自分の人生や思いについておもに綴っています。

旅の始まりとアドラー

「嫌われる勇気」

初版は2013年。岸見一郎氏と古賀史健氏が手がけ、

日本にアルフレッド・アドラーの名を広めることに一役買ったこの本を、

最近私は手にした。

 

哲学や心理学関係の本を読むのは、大学の時以来だったと思う。

家族との衝突や自身の障がいなど、

いろいろなことでストレスを抱えていた時に手に取ったのが、

「嫌われる勇気」だった。

 

この本は私の生き方にとても強い影響を与えた。

「自分が自分であること」

「そのために必要なコスト」

「自分が自分であることによって得られるもの」

を明確にしてくれたからだ。

 

昨今、不況や、社会情勢の不穏化などと共に、

ライフスタイルの見直しが盛んになり、

「我慢しすぎていませんか?」「自分に優しくしよう」と、

自分を見つめ直し、自分らしく生きることを推奨する本はたくさん出ているが、

この本ほど論理的に、明確にそれを説いているものは少ないと思う。

 

人は自分らしく生きることを恐れる。

なぜなら、社会が怖いから。

 

子どもならば受験、大人ならば労働。

私たちは恐れる。

もっと楽に生きたい、

自分らしく生きたいという本音を持っていながらも、

社会が押し付ける「社会にふさわしい人間」という型枠の前に口をつぐみ、

その枠に自分を押し込めようと、必死に頑張っている。

 

さながら、空気の少ない水槽の中の金魚のように、

少しでも酸素を求めて、必死に喘ぎながら。

 

頑張ることをやめれば沈む。

社会が用意した枠に、

自分を当てはめることができなければ、水槽の底に沈んでしまう。

 

水槽の底は濁った闇だ。混沌だ。

一度失敗して落ちてしまったら、容易には這い上がれぬ、底なしの闇。

だが、自分らしく生きるヒントとは―

我々が目を背ける、

社会という水槽の、その闇の底にこそ、眠っているのではないか?

 

私もまた、その闇の中に生きる住人の一人である。

私がいる層から見上げれば、そこはとてもまぶしい、きれいな世界だ。

かつて私には、

彼らが、私には届かぬ光に鱗をきらめかせ、

尾を優雅にひらめかせながら泳ぐ、錦鯉に見えた。

 

私は人生に失敗し、錦鯉にはなれなかった。

私は今も暗い水の底で、

自分の生き方と、

生きるために無くしてしまったもの、

捨ててしまったものを求めてさまよっている。

 

これは、私がアドラーなどの先人たちの教えを頼りに、

先の見えぬ水底を歩く記録である。